うんちは何を語る?

第二の脳といわれる腸と人の体のかかわりについて、興味本位に書きつづります。

腸内細菌は危険?

細菌におののくお母さん

私が子供の頃には、「トイレにいって手を洗わないと、大腸菌でおなかを壊す」など、「大腸菌」というワードは汚い細菌の代名詞的につかわれていました。

また、現在でも、海水浴場の汚染度は、大腸菌の数で評価されています。

となると、やはり大腸菌は不潔な菌の代表なの?と考えてしまいますよね。

 

ここで、うんちに目を移してみると、うんちは、食物の不消化部分や消化液、消化管上皮が剥がれたもの、腸内細菌とその死骸などを含んでいます。

腸内細菌は、ほとんどが大腸内で活動していたものです。

その中の大腸菌は、うんち1g中に1億個程度含まれています。

数字的にはかなり多い印象があるかもしれませんが、うんち1g中の全細菌数は約1000億個なので、うんち中の全細菌数のたった1/1000を占めているに過ぎないのです。

そう聞くと、決して多数派ではないということがわかると思います。

一言で大腸菌と呼んでいますが、大腸菌には170以上もの種類があり、確かにその一部は腸管出血性大腸菌O-157に代表されるような、食中毒を引き起こす菌もあるため、「危険」というイメージがつきまとっています。

が実は、ほとんどの大腸菌非病原性なんです。

それどころか、多くの大腸菌は、腸内でビタミンを合成したり、有害な細菌の増殖を抑えたりして、人の健康に役立っています。

 

前述した、海水浴場の汚染度の件では、大腸菌は増殖速度が速く検出しやすいので、人や家畜の糞便による汚染を基準にしています。

つまり、海水が人畜のうんちで汚染されていれば、さまざまな病原性の細菌を含む可能性が高いという判断材料にしているんです。

ですから、繰り返しになりますが、すべての大腸菌が人の健康を害するという解釈は間違っています。

 

食中毒と腸内細菌の関係

梅雨時から夏にかけて、腸管出血性大腸菌O-157をはじめ、腸炎ビブリオサルモネラなどさまざまな病原菌による食中毒事件が、しばしば発生します。

これら食中毒の多くは、家畜などの腸内をすみかにしていた病原菌が糞便に混じって体外に出た後、飲料水や食物などを介して人の体内に入って増殖し、病気を引き起こす、いわゆる細菌感染が原因です。

 

考え方によっては、人の消化管はロから胃、腸、そして肛門に至るまで、外の異物が自由に出入りできる環境にある、いわば体外と同じであるということです。

そういった意味では、腸は外部からたくさんの病原菌や毒素などが送り込まれる危険性が高い環境にあります。

だからこそ、消化管の表面をおおう細胞は、細胞膜特性として、たとえ極小分子であるブドウ糖ですら簡単には吸収できない、つまり消化管内からは、体の中に異物が入り込みにくい仕組みになっています。

なので、少しばかりの病原菌が腸内に入つたとしても、腸から体内に吸収されることは稀で、通常は直接害を受けることはありません。

 

悪玉菌と戦う善玉菌

 

腸は強力な免疫装置

腸内に入り込んだ病原菌に対して、どのような防御システムを備えているのかというと、人の体は「腸管免疫」とよばれる複雑な防御システムを腸に装備しています。

詳細は省きますが、腸付近には、ロから腸に入り込んだ病原菌など異物と判断されるものをただちに選別し、体内への侵入を防止してくれるタンパク質をつくり出す細胞の60%以上が駐留しているそうです。

それだけをとっても、いかに腸が体の最前線として防備に力を注いでくれているかが分かると思います。

さらに、もし腸管免疫をくぐり抜けて、病原細菌が腸から体内に侵入したときには、ラクトフェリンやリゾチームなどの抗菌作用をもつタンパク質で悪い菌を死滅させる仕組みも備えているんです。

ただ、いくら腸に二重、三重に病原菌の進入を防ぐバリヤーが備わっているといっても、ときには腸内に増えた病原菌の毒素などによってそのバリヤーが崩され、全身に細菌やその毒素が蔓延して病気になったり、ひどいときには命まで奪われることもあります。

そうならないためには、日頃から腸のバリヤーをしっかり保持すること、具体的には腸の蠕動運動を高める習慣が大切です。

誰でもできる方法は、食事の内容を見直すこと。

ビフィズス菌など善玉菌の増殖に有効な、セルロースオリゴ糖を含む野菜類や豆類などを積極的に摂取したいところです。

点滴などで栄養を補給して腸管を刺激しない入院患者は、腸のバリヤー崩壊による疾患にかかる割合が高いというデータもあるそうです。

やはり、腸の機能を正常に保つには、食物繊維の摂取は有効だということでしょう。

また、ビフィズス菌が免疫機能を高めることも実験で証明されています。

その上、ビフィズス菌の増殖は、腸内に侵入した病原菌が増えるのを抑えることにもなりますから、野菜・豆類などの食物摂取は、腸のバリヤーを守るために一石二鳥の効果があるのです。